過払い金返還請求権の時効消滅②
過払い金返還請求権(不当利息返還請求権)は原則10年で時効消滅します。過払い金の返還請求において、相手業者から消滅時効が主張されるケースとしては下記のような取引があります。
1.取引自体が既に10年以上前に終了(完済)しており、その後取引がない場合
2.10年以上前に一度完済により取引が終了しているが、その後再取引を開始しており最後の取引は10年以内である場合
3.完済による取引終了はないが、10年以上前に既に過払い金が発生している状態となっている場合
取引自体が既に10年以上前に終了(完済)しており、その後取引がない場合
この場合には、基本的に過払い金全額が時効により消滅していると判断されるため返還を受けることは原則として出来ません。但し、平成19年12月11日の神戸地裁判決は、「過払い金を受け取ることは債務者の無知に乗じた違法な行為」とし、10年以上前に完済した取引における過払い金全額と利息の計約91万円を「損害賠償」として支払うよう命じた判決があります。
また、時効が進行する起算点である「権利を行使することができるとき(民法166条)」とは過払い金の返還請求を行うことを現実に期待できるときであるとして「取引履歴が開示されたとき」「取引履歴の開示請求をしたとき」又は「弁護士や司法書士に手続きを依頼したとき」等を時効進行の起算点であるとの主張も可能です。
【実際の過払い金返還請求訴訟における対応について】
上記神戸地裁判決は非常に稀な判例ですし、時効が進行する起算点である「権利を行使することができるとき(民法166条)」の考えについても、「権利者が権利の存在や行使の可能性を知っていることを要しない」とする考えが判例・通説であるとされています。そのため原則としては「法律を知らなかった(過払い金の返還請求ができることを知らなかった)」ことを理由とすることはできないと考えられてしまうのです(大審院大正6年11月14日判決等)。多くの裁判例では10年以上前の完済取引(その後も取引なし)については業者側の時効主張を認める判断が主流です。時効の起算点の考え方(権利行使可能性の有無)について争う余地はありますが、現実的には認められないことが多く、返還を受けることが出来ないと考えたほうがよいでしょう。
10年以上前に一度完済により取引が終了しているが、その後再取引を開始しており最後の取引は10年以内である場合
現在の過払い金返還請求において最も大きな争点となり得る時効消滅の争点です。完済した以前の取引含めすべての取引を一連一体の取引であると考えることができるか、それとも完済した取引はその後の取引とは別の取引として一連一体の取引とは認められないと考えることができるか、このように判断が分かれることにより時効主張が認められるか否かの判断も分かれることになります。
この争点が過払い金の返還請求において最も大きな争点となる理由は、過払い金の時効消滅が認められることにより過払い金返還額が大幅な減額になることが多いからです。
場合によっては、一連での計算処理では過払いとなっているが、取引中断の時効消滅が認められると逆に債務が残ってしまう場合すらもよくあります。
【実際の過払い金返還請求訴訟における対応について】
継続的な取引を一連一体の取引と認めるか否かが争点となるため「個別・一連取引についての争点」において詳細に記載したいと思います。完済による取引終了はないが、10年以上前に既に過払い金が発生している状態となっている場合
過払金返還請求権が「支払(借主の返済)の都度個別に発生するものである」として仮に基本契約が同一の継続的・一体的な取引であっても、過払金返還請求権がそれぞれ個別に消滅時効が進行すると主張するものです。
この主張が成り立つとすると、請求から(厳密には訴訟提起日から)ちょうど10年前に発生していたその時点の過払い金全額について消滅時効が成立することになります。
【実際の過払い金返還請求訴訟における対応について】
上記主張は最高裁平成19年6月7日第一小法廷判決の判断により排斥できることが通常です。最高裁平成19年6月7日第一小法廷判決
「本件各基本契約に基づく債務の弁済は、各貸付けごとに個別的な対応関係をもって行われていることが予定されているものではなく、本件各基本契約に基づく借入金の全体に対して行われるものと解されるのであり、充当の対象となるのはこのような全体としての借入金債務であると解することができる。そうすると、本件各基本契約は、同契約に基づく各借入金債務に対する各弁済金のうち制限超過部分を元本に充当した結果、過払金が発生した場合には、上記過払金を、弁済当時存在する他の借入金債務に充当することはもとより、弁済当時他の借入金債務が存在しないときでもその後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意を含んでいるものと解するのが相当である」
上記最高裁平成19年6月7日第一小法廷判決が判示するとおり、1つの包括的金銭消費貸借契約(基本契約)に基づく取引は、個別的な対応関係を持って行われる取引ではなく、一連一体の1つの取引であり、不当利得返還請求権は、その支払いの都度個別に発生するものではないとの主張が出来ることになります。
すなわち継続的取引における借主の過払金返還請求権は次の借入金債務に充当されることによりその都度、過払金返還請求権全体について時効が中断していると考えることができるのです。
不当利得返還請求権は取引が継続する限り1個であり、その額が変動していくだけであるから、民法166条にいう「権利を行使することができる時」である、過払金の不当利得返還請求権の時効の起算点は最終取引日であると主張することになります。
また仮に過払金返還請求権は「支払の都度個別に発生する」と考えたとしても、上記最高裁平成19年6月7日第一小法廷判決は一連一体の取引として計算関係を処理すべきであることを認めているのですから、過払金発生後、再度の貸付により過払金は清算(返済)されており、10年前の時点で発生していた過払い金額と同額以上の再貸付を行った時点で時効を主張する債権が存在していないと考えることもできます。
そして、このようなもはや存在しない債務について時効による消滅を観念する余地はない(最高裁平成13年(受)751号同15年3月14日第二小法廷判決・民集57号3巻296頁)と主張していくことになります。
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