平成19年6月7日
【事案の概要】
「過払い金発生時に他の債務が存在しない場合」の新たな貸付への過払い金充当の可否が争われた事案【判決要旨】
弁済によって過払い金が発生しても、その当時他の借入金債務が存在しなかった場合には、上記過払い金は、その後に発生した新たな借入金債務に当然に充当されるものということはできない。(略)そうすると、本件各基本契約は、同契約に基づく各借入金債務に対する各弁済金のうち制限超過部分を元本に充当した結果、過払い金が発生した場合には、上記過払い金を、弁済当時存在する他の借入金債務に充当することはもとより、弁済当時他の借入金債務が存在しないときでもその後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意を含んでいるものと解するのが相当である。
【本判決の意義】
「基本契約が同じ取引であれば、すべての取引は一連一体のものとして過払い金の計算において、それまでに発生していた過払い金は新たな借入金に即時当然充当される」と判断されました。
この判断により、一部の貸金業者が主張する「基本契約が同一の場合でも過払い金発生時に他の債務が存在しない場合には、それまでに発生していた過払い金は新たな借入に当然充当されない」との主張、又「この主張によると基本契約が同一の取引が継続していても10年以上前の過払い金は時効消滅する」との主張が成り立ちますが、いずれも本判決により完全に排斥されることとなりました。
【本判決の問題点】
「過払い金が発生した当時に他の借入金債務が存在しなかった場合には、その後に発生した新たな借入金債務には当然には充当されない」と判断されてしまっている。平成19年2月13日最高裁第三小法廷判決同様の即時当然充当を原則否定する判決です。本判決により「基本契約が別」の取引の場合には、「新たな借入金債務には当然には充当されない」との解釈がなされてしまう恐れがありますし、間違いなく業者側はそのような主張を(これまでよりも更に強く)してくるでしょう。
平成19年2月13日最高裁第三小法廷判決においても、実質的に同様の判断がされたのですが、この判決以後、過払い金返還手続きにおける主な争点である「取引中断後の再取引において、すべての取引を一連として過払い金の計算ができるか否か」の判断として「基本契約が同一の取引か否か(基本契約が同一と同視できる取引か否か)、基本契約を締結しているのか否か」という点に集約されてきています。
この平成19年6月7日最高裁判所第一小法廷判決により更にその傾向は強まるでしょう。
しかし、この「基本契約が同一か否か、基本契約を締結しているのか否か」について、一旦完済により契約を「解約した場合」と「解約せずにいた場合」とで、その判断を分けてしまう恐れがありますし、現在の実際の訴訟上も「基本契約が同一か否か、と新たな再借入を開始するまでの期間の長短」のみをその判断材料とされてしまうことが多くなっているように感じます。
平成19年2月13日最高裁第三小法廷判決においては、「第1の貸付の際にも第2の貸付けが想定されていた」場合にも即時当然充当(一連計算)が認められるとの判断がありましたので、これまでの個別取引、一連取引の争点における判断同様「同一支店での取引か否か」「同一会員番号又は同一契約番号での取引か否か」「完済による取引終了(解約)後、業者側の勧誘により再取引を開始したのか否か」「その他同一の取引と同視できる一切の事情」等の総合的な判断により即時当然充当(一連計算)が認められるか否かを判断する必要があるはずです。
しかし、特に大量の事件を簡易・迅速に処理することを目的とする簡易裁判所での裁判となると、そのような様々な事情を審理・考慮するまでもなく、「基本契約が同一か否かいう点と、新たな再借入を開始するまでの期間の長短」のみにより判断されることが多くなるように思えてなりません。極端な場合には、「再取引までの期間の長短」までも審理することなく「基本契約が同一か否か」のみを判断材料にされてしまうこともあるのではないでしょうか。
それでは、継続した取引において完済により一度「基本契約を解約した場合」と完済したが「基本契約を解約しなかった場合」、すなわち形式的には「基本契約が別」と考えられる場合にはどのような違いがあるのでしょうか?
継続した取引途中に完済により「契約を解約をした場合」すなわち「形式的には基本契約が別」と考えられてしまう場合とは、借主側としては「もう借りないようにしようと思い、完済後カードを返還して契約を解約した場合」「返済が困難になり、業者側より一方的に契約解除と一括返済を求められ、身内より援助などを受けて完済した場合」「完済後、一定期間の経過により業者と当初に取り交わした契約条項上解約となった場合」等が考えられます。
継続した取引途中に完済したが「基本契約を解約せずにいた場合」すなわち「新たな再借入にも同一の基本契約が継続していると考えられる場合」とは、「完済したが、新たな借入をするかもしれない(又はしようと)と考えて基本契約を解約せずにカードを保持していた場合」「業者側に解約をしないでほしいと嘆願などされて解約しなかった場合(かなり多いケースであると思います)」「完済をしたら当然に基本契約は解約されるものと思い、解約の意思表示等をしなかったが、実際には解約されてなかった場合」などが考えられます。
この判決(基本契約が別な取引には当然には充当されない)からは、このような当事者の意思や偶然の事情などにより充当方法が変わってしまう恐れもあるということです。
また、契約を一度解約して再借入時に異なる基本契約を締結すれば別系列の取引として、過払い金の充当がなされないという結論になると、業者側としては、「一度完済した後、数日でも再借入までに期間が開いた場合には、簡易な申込みをさせるなどして基本契約を別に締結する」ことにより、容易に過払い金の充当を免れることが出来ることになります。
すなわち「充当に関して強行法規である利息制限法の潜脱」を容易に許す結果となるのです。
確かに、契約の借換などの場合のように、帳簿上同日に完済と再借入を行う場合には「同一の契約が継続しているとみなされる」ことは現在の当然の判例理論ですので、そのような明らかな潜脱を目的とするような再契約の場合や新たな基本契約締結による再借入までの期間が極端に短い場合には、これまで同様「一連の基本契約での取引と同一視」して一連計算が認められることが多いでしょう。
しかし、このような判決が出てしまったことにより、「同一の基本契約と同一視すべき取引」であることを借主側が主張立証しなければならないことになりかねません。
そして、その主張立証が出来ない(されない)場合には、「当然充当されない」との結論になってしまうことにもなります。
しかし本来、利息制限法超過利息の充当の問題は「法律問題に属するもの」(昭和43年10月29日最高裁第三小法廷判決(民集22巻10号2257頁)であり、当事者の主張立証の有無などに左右されるものではないはずです。
平成15年7月18日最高裁第二小法廷判決(民集57巻7号895頁)からの「当事者の合理的意思解釈の探求」からこのような判断がなされてしまったものと考えられますが、平成19年2月13日最高裁第三小法廷判決に続き多くの疑問が残る判決であると思います。
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