平成20年1月18日最高裁判所第二小法廷判決(判例)
08年03月30日平成20年1月18日最高裁判所第二小法廷判決(判例)
平成20年1月18日最高裁判所第二小法廷にて過払い金の充当に関する重要な新たな最高裁判所判決が出ました。【事案の概要】
消費者金融との取引において、いわゆるリボルビング方式の取引により金銭消費貸借取引が継続していた場合に一度完済後、約3年後に再度契約書を取り交わして再取引を開始した場合のそれまでの過払い金の再借入金への充当の可否が争われた事案。以下、最初の取引を「基本契約1」、再契約後の取引を「基本契約2」とします。
【判決要旨】
基本契約1と基本契約2に基づく取引とが事実上1個の連続した貸付取引であると評価することができる場合に当たるなどの特段の事情がない限り、基本契約1に基づく取引により生じた過払い金は、基本契約2に基づく取引に係る債務には充当されない。と判断し、前記特段の事情の有無につき審理を尽くさせるため原審へ差し戻しました。【事案の詳細】
基本契約1平成2年9月3日締結
ア 融資限度額 50万円
イ 利息 年29.2%
ウ 遅延損害金 年36.5%
エ 返済日 毎月1日
オ 返済方法 借入時の借入残高に応じた一定額以上を毎月弁済日までに支払う
上記基本契約に基づく取引は平成7年7月19日に完済
基本契約2
平成10年6月8日締結(基本契約1完済から約3年後)
ア 融資限度額 50万円
イ 利息 年29.95%⇒基本契約1より利率が高くなっている
ウ 遅延損害金 年39.5%⇒基本契約1より利率が高くなっている
エ 返済日 毎月27日
オ 返済方法 借入時の借入残高に応じた一定額以上を毎月弁済日までに支払う
基本契約2締結時の態様
1.借入申込書を新たに作成
2.健康保険証のコピー等を徴収
3.勤務先に電話して在籍確認
4.第1の基本契約締結時と同一支店での契約
5.融資希望額、勤務先、雇用形態、給与の支給形態、業種及び職種、住居の種類並びに家族の構成は基本契約1締結時と同一
6.年収額及び他に利用中のローンの件数、金額についても基本契約1締結時と大差ない状況
本判決においては
1.取引中断期間が3年と長期に渡っていること
2.基本契約1と基本契約2では利率、遅延損害金が異なっている
ことを捉えて原審の認定した事情だけでは「特段の事情あり」とは言えない、と判断されました。
原審の認定した事情
1.基本契約1完済時に基本契約1を終了させる手続が執られた事実がない
2.基本契約2締結の際の審査手続も基本契約1が従前どおり継続されることの確認手続に過ぎなかったと見ることが出来る
「以上の事情を考慮すると、基本契約1と基本契約2は、単に借増しと弁済が繰り返される一連の貸借取引を定めたものとして実質上一体として1個のリボルビング方式の金銭消費貸借取引と評価できる。」
と判断して原審では基本契約1で発生していた過払い金の基本契約2への充当を認めました。
【本判決の特段の事情について】
本判決のいわゆる「特段の事情」についての具体的な判断基準として以下7点が示されました。但し、「~等の事情を考慮」との判決内容のとおり、「例示列挙」ですので、同判決で具体的な判断基準として示されていないその他の事情も考慮されるべきものとなるでしょう(例えば、契約番号や管理番号の同一性、取り扱い支店の同一性等)。
本判決により示された事実上1個の連続した貸付取引であると評価できるか否かの具体的な判断基準
1.第一の基本契約に基づく貸付及び弁済が反復継続して行われた期間の長さ
2.最終の弁済から第2の基本契約に基づく最初の貸付けまでの期間
3.第1の基本契約についての契約書の返還の有無
4.借入れ等に際し使用されるカードが発行されている場合にはその失効手続の有無
5.第1の基本契約に基づく最終の弁済から第2の基本契約が締結されるまでの間における貸主と借主との接触の状況
6.第2の基本契約が締結されるに至る経緯
7.第1と第2の各基本契約における利率等の契約条件の異同
上記事情を考慮して、第1の基本契約に基づく債務が完済されてもこれが終了せず、第1の基本契約に基づく取引と第2の基本契約に基づく取引とが事実上1個の連続した貸付取引であると評価することができる場合には、「過払い金を新たな借入金債務に充当する旨の合意」が存在するものと解すると判断しました。
【本判決の意義】
消費者金融とのリボルビング方式の取引についていわゆる完済後、再契約により取引が再開した場合の過払い金の一連計算が認められる「特段の事情」の具体例を示した判断となりました。平成19年2月13日最高裁第三小法廷判決により一連計算は利息制限法からの当然の帰結であるとする、いわゆる当然充当が原則否定されました。
その後の充当に関する最高裁判決としての平成19年6月7日最高裁判所第一小法廷判決、平成19年7月19日最高裁判所第一小法廷判決において一連計算を認める判断がなされましたが、これらの判決は一連取引を認める「特段の事情あり」と判断されて充当が認められました判決でした。この充当を認めた2つの最高裁判決により「特段の事情の有無」につき緩やかに(幅広く)解釈して当然充当に近い形で充当を認める判断がなされることも多くなりました。
しかし、本判決により「充当を認める特段の事情」についての具体例が示されたことから、①取引中断期間があり、②取引再開時に別の契約書を取り交わしている場合には、一連計算を簡単には認めないとの方向性を示されてしまったように思います。
少なくとも裁判所としては、過払い金の充当の可否が争われる事案において、本判決により具体例として示された特段の事情の有無につき判断することなく、過払い金の充当による一連計算を認める判決を出せないということになりかねませんので、厳しい判断と言えるでしょう(更なる裁判の長期化が危惧されます)。
【今後の過払い金返還訴訟】
本判決以後、過払い金返還訴訟において個別取引、一連取引の争点のある事案においては、裁判官は以前にも増して慎重な姿勢を取るようになっていると感じます。本判決の「特段の事情」の具体例に基づき、慎重に判断しなければならないとの考えが裁判官にあることは当然のことですので、そのような裁判官の意図に沿うように、それぞれの事案ごとに本判決により示された「少なくとも7つの特段の事情の有無」につき丁寧なあてはめによる主張・立証が求められることになると思います。
それでは、本判決により例示列挙された7つの具体的判断基準について考えてみたいと思います。
1.第一の基本契約に基づく貸付及び弁済が反復継続して行われた期間の長さ
同一の貸主との取引期間が長ければ長いほど、通常の借主は借入総額の減少をより強く望むため、過払い金を次の借入にも充当すべきである、との考えから取引期間が長い方が充当を認める根拠となります。
判例タイムズ1154号61Pにおいても片山健裁判官が「貸付が相当期間にわたり反復継続された場合には、通常の借主において、「借入総額の減少を望むなどの意思を有することに変わりない」といえ、これを肯定すべきである」と述べています。
2.最終の弁済から第2の基本契約に基づく最初の貸付けまでの期間
本判決においては約3年の取引中断期間がありました。
平成19年7月19日最高裁判所第一小法廷判決では約3ヶ月の取引中断の事案で「期間的に接着」しているとして一連計算を認めています。
本判決により、3年では「期間的に接着」しているとはいえないとの実質的な判断となったように思います。しかし、本判決は3年の取引中断期間があったとしてもその他の「特段の事情の有無」により一連取引を認める場合があることを示した判断といえるでしょう。
3.第1の基本契約についての契約書の返還の有無
第1の基本契約による取引が完済した際に、取引を終了させる意思を有していた場合には「契約を終了させる意思表示を行い契約書の返還を受けている」場合が通常との考え方によるものです。
完済時に契約書の返還を受けていないことが、取引が継続しているとされる「特段の事情あり」との判断基準の一つとなることですが、「契約書の返還を受けた」ことの立証は非常に困難であると思います。
契約書の返還を受けて「ない」ことの立証のなりますが、「ない」ことの立証は不可能に近いことだからです。 実際に返還を受けていない場合、その立証方法としては借主本人の証言に頼らざるおえないと思います。証言以外では完済時の返済方法が(店頭窓口ではなく)ATMでの返済であったことも契約書の返還を受けていないとする多少の推定は働くかもしれません。
貸金業者側としては、仮に契約書の返還をしていない場合でも不利な証拠を提出するはずもありませんので、「契約書は返還した」と言い張る(主張する)だけとなるはずです。
文書提出命令により業者側に保存されているはずの「契約書」や返還をしたと主張するならば「契約書返還時の受領書」の提出を求めることも考えられますが、文書提出命令も結局のところ原告側に「提出する資料が業者側に存在する」ことの立証が必要になりますので、「契約書が返還されていない」ことの立証と同じ立証を求められることになります。
「契約書返還時の受領書」は、その業者が契約書の返還時に取り交わしている書類であれば、有効な手段となると思いますが、一般的には取り交わすことのない書類です。
裁判所も業者側が「古い契約書は返還した」と主張された以上、その後の再取引時に新たな契約書を取り交わしている場合では、裁判所が文書提出命令により古い契約書の提出を求める決定を出すことは躊躇せざるを得ないと思います。
取引履歴のような「データ」の開示と異なり、契約書原本はその「原本」ひとつしかありませんので、「返還した」と主張された以上、その契約書が存在する立証ありと判断することは非常に困難であると思われますし、「古い契約書の文書提出命令の決定」を出すことは、実質的に「契約書が返還されていない」ことを裁判所が認める決定となりますので、決定を出すことにも意味がない(決定を出すまでもなく「契約書は返還されていない」とする立証目的は達成されている)こととなります。
4.借入等に際し使用されるカードが発行されている場合にはその失効手続の有無
意味合いとしては3の契約書の返却有無と同じことです。
完済時にカードの失効手続を行っていれば、その後の契約は別契約であると考えられる方向となり、カードの失効がなければ、一連取引と考えられる「特段の事情」のひとつとなります。
契約書の返却有無と似てはいますが、「失効されていない」ことの主張立証は契約書の返還有無とは異なり割と容易に行えます。
借主としては、
1.当初から所持しているカードを示す
(カード番号で発行年月等を特定できる場合には、当然その主張も行います)
2.完済時にもカードは失効されていないとする借主本人の証言(陳述書)
により、業者側の反証を待つことができます。
業者側としては実際に失効された事実がなければ反証を行うことは出来ないでしょうし、裁判官としても証拠として提出されたカードが当初の契約時のものであることまで借主側に立証を求めることは出来ないはずです。
しかし、裁判官によってはその立証まで求めてくる場合があり得ます。カード番号の記載などで発行年月等が分かる業者のカードであればその立証も可能ですが、そうでない限りそこまでの立証を借主側が行う必要性がないことを丁寧に主張していくことが必要でしょう。
5.第1の基本契約に基づく最終の弁済から第2の基本契約が締結されるまでの間における貸主と借主との接触の状況
「接触の状況」とは、取引中断期間中の業者側からの勧誘の有無等のことでしょう。
完済後も業者側から頻繁な勧誘があり、取引中断期間中も「顧客」との認識を有していた場合には、「契約は決して終了していない」との考え方によるものです。
6.第2の基本契約が締結されるに至る経緯
5の「貸主と借主との接触の状況」における勧誘の有無、その後の再貸付に至る経緯から、「契約が続いている状態」と考ることが出来るか否か、貸主と借主の認識を判断するための事情と言えます。
頻繁な消費者金融業者側からの勧誘により再契約を行った場合には、「決して契約は終了していない」(過払い金の計算を一連取引として行う)と判断されるべきです。
なぜなら消費者金融等の貸金業者にとって完済顧客への再貸付は「掘り起こし」と言われ、新規貸付、既存顧客への追加貸付と並ぶものとして積極的に進められています。
再融資をさせるため消費者金融業者は過去の完済取引で得た情報、支払経過等を最大限に利用するため、完済者リストを作成しているのが一般です。
過去の取引の原因、例えばギャンブルによるとか、レジャー目的であるとかの点等に着目して、それらの弱みにつけこみ勧誘を行うのです。
借入をしていなかった期間にも消費者金融はこのような勧誘を行うのが通常です。それにもかかわらず借入がなかったことだけを理由に、その後の再貸付は以前の取引とは別取引であるとして過払金の新規貸付金への充当を免れることが出来る、との判断がなされることは消費者金融業者の実体を無視した判断と言えるでしょう。
また再貸付時における業者側の貸付審査の有無も重要な要素と考えられます。新たな融資審査を行った形跡がなければ「継続した一連の取引」と考えられやすくなりますし、逆にしっかりとした融資審査が行われた形跡があれば、新たな別取引と考えられやすくなるでしょう。
7.第1と第2の各基本契約における利率等の契約条件の異同
契約条件が異なれば、別取引であるとの客観的な判断材料になるとの事情ですが、「契約条件の異同」と言っても、その変更内容により①「契約が継続していたと考えられるか」それとも②「新たな別契約と考えられるか」の判断はまったく正反対のものになるはずです。
消費者金融のリボルビング取引において、「極度額を上がる」「利率を下げる」等の変更は①「契約が継続していた」と考えられる根拠となるはずです。
それに対して「極度額が下がる」「利率が上がる」等の変更は②「新たな別契約」と考えられやすい事情と言えると思います。
本判決の事案においては、「極度額が下がり」、「利率が上がる」再契約がなされました。このように②「新たな別契約」と考えられやすい事案であったことも判決内容に影響しているものと思われます。
その他の「特段の事情」
以上7つの例示列挙以外にも「特段の事情」と考えられる内容として、「管理番号、顧客番号、契約番号の相違」が挙げられると思います。 しかし、本判決によりあえてこの基準を挙げなかったことにも注意が必要でしょう。再取引後にも管理番号等が同一であれば、まず必ずはじめに一連取引を認める根拠として主張することです。
この事情を「特段の事情」の例示として挙げなかったことは、「この事情は重要視することは出来ない」との判断をしているように思えます。
確かに、同一の管理番号、顧客番号、契約番号等により顧客を管理すべきとすることは貸金業法からの要請であるため、管理番号や顧客番号等が同一だとしても別取引としての根拠としては薄いのかもしれません。
しかし、完済により「契約関係が終了した」と業者側で判断したのであれば、それまでの取引において付していた管理番号等を廃棄し、新たな契約を締結した段階で、別の管理番号等を付せばよいだけのことのはずです。少なくとも貸金業法上の帳簿保存期間3年経過後も管理番号等の変更がなければ、「新たな貸付を想定していた」事情と言え、一連取引を認める根拠とすべきと思います。
【以下、判決文要旨抜粋】
(1) 同一の貸主と借主との間で継続的に貸付けとその弁済が繰り返されることを予定した基本契約が締結され,この基本契約に基づく取引に係る債務の各弁済金のうち制限超過部分を元本に充当すると過払金が発生するに至ったが,過払金が発生することとなった弁済がされた時点においては両者の間に他の債務が存在せず, その後に,両者の間で改めて金銭消費貸借に係る基本契約が締結され,この基本契約に基づく取引に係る債務が発生した場合には,第1の基本契約に基づく取引により発生した過払金を新たな借入金債務に充当する旨の合意が存在するなど特段の事情がない限り,第1の基本契約に基づく取引に係る過払金は,第2の基本契約に基づく取引に係る債務には充当されないと解するのが相当である(最高裁平成18年(受)第1187号同19年2月13日第三小法廷判決・民集61巻1号182 頁,最高裁平成18年(受)第1887号同19年6月7日第一小法廷判決・民集61巻4号1537頁参照)。そして,第1の基本契約に基づく貸付け及び弁済が反復継続して行われた期間の長さやこれに基づく最終の弁済から第2の基本契約に基づく最初の貸付けまでの期間,第1の基本契約についての契約書の返還の有無, 借入れ等に際し使用されるカードが発行されている場合にはその失効手続の有無, 第1の基本契約に基づく最終の弁済から第2の基本契約が締結されるまでの間における貸主と借主との接触の状況,第2の基本契約が締結されるに至る経緯,第1と第2の各基本契約における利率等の契約条件の異同等の事情を考慮して,第1の基本契約に基づく債務が完済されてもこれが終了せず,第1の基本契約に基づく取引と第2の基本契約に基づく取引とが事実上1個の連続した貸付取引であると評価することができる場合には,上記合意が存在するものと解するのが相当である。
(2) これを本件についてみると,前記事実関係によれば,基本契約1に基づく取引について,約定利率に基づく計算上は元利金が完済される結果となった平成7 年7月19日の時点において,各弁済金のうち制限超過部分を元本に充当すると過払金42万9657円が発生したが,その当時上告人と被上告人との間には他の借入金債務は存在せず,その後約3年を経過した平成10年6月8日になって改めて基本契約2が締結され,それ以降は基本契約2に基づく取引が行われたというのであるから,基本契約1に基づく取引と基本契約2に基づく取引とが事実上1個の連続した貸付取引であると評価することができる場合に当たるなど特段の事情のない限り,基本契約1に基づく取引により生じた過払金は,基本契約2に基づく取引に係る債務には充当されないというべきである。
原審は,基本契約1と基本契約2は,単に借増しと弁済が繰り返される一連の貸借取引を定めたものであり,実質上一体として1個のリボルビング方式の金銭消費貸借契約を成すと解するのが相当であることを根拠として,基本契約1に基づく取引により生じた過払金が基本契約2に基づく取引に係る債務に当然に充当されるとする。しかし,本件においては,基本契約1に基づく最終の弁済から約3年間が経過した後に改めて基本契約2が締結されたこと,基本契約1と基本契約2は利息, 遅延損害金の利率を異にすることなど前記の事実関係を前提とすれば,原審の認定した事情のみからは,上記特段の事情が存在すると解することはできない。 そうすると,本件において,上記特段の事情の有無について判断することなく,上記過払金が基本契約2に基づく取引に係る債務に当然に充当されるとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
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